ゴミ屋敷を生み出す大きな要因の一つに、「ためこみ症(ホーディング障害)」という精神疾患があります。これは、物の価値に関わらず、物を捨てたり手放したりすることが、持続的に困難であるという状態を指します。その結果、生活空間が物で埋め尽くされ、健康や安全が脅かされるほどの事態に至るのです。では、なぜ彼らは物を捨てることができないのでしょうか。その心理は、単なる「もったいない」という感覚とは一線を画す、より根深いものです。ためこみ症の人の心理的特徴として、まず「物への過剰な愛着」が挙げられます。彼らにとって物は、単なる物体ではありません。一つ一つの物に、過去の思い出や特定の感情が強く結びついており、それを捨てることは、まるで自分の一部や、大切な記憶そのものを失うかのような、耐え難い苦痛を伴います。チラシ一枚、壊れたペン一本でさえ、彼らにとっては「いつか何かの役に立つかもしれない」「これは特別なものだ」という、独自の価値観の中で特別な意味を持っているのです。次に、「物を失うことへの極端な恐怖と不安」があります。物を手放すという行為が、将来への備えがなくなること、あるいは自分自身のコントロール感を失うことへの強い不安を引き起こします。物を溜め込むことで、不確かな未来に対する不安を和らげ、物理的に物に囲まれることで、一種の安心感や安全感を確保しようとしているのです。さらに、「情報の処理と意思決定の困難さ」も関係しています。何を残し、何を捨てるかという判断を下すこと自体が、彼らにとって非常に大きな精神的負担となります。無数の選択肢を前に思考が停止してしまい、結局「とりあえず全部取っておく」という、最も簡単な結論に落ち着いてしまうのです。このように、ためこみ症は、意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の機能不全が関わっているとされる、治療を必要とする病気です。本人の苦しみを理解し、認知行動療法などの専門的なアプローチを通じて、物との健全な関係性を再構築していく手助けが不可欠となります。