ゴミ屋敷という現象の背後には、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)やADHD(注意欠陥・多動性障害)の特性が深く関わっていることがありますが、さらにその上に「セルフネグレクト(自己放任)」という深刻な状態が重なっているケースも少なくありません。セルフネグレクトとは、自身の健康や生活環境、衛生状態への関心が著しく低下し、必要なケアを怠ることで、心身の健康や生命が脅かされる状態を指します。発達障害を持つ人々がセルフネグレクトに陥る背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、ASDの「実行機能の困難」は、日常生活におけるタスクの優先順位付けや計画立てを難しくさせます。清潔な環境を維持するための掃除や、食事の準備、入浴といった基本的な自己管理行動が、彼らにとっては非常に複雑な作業と感じられ、結果として放置されがちになります。ADHDの「不注意」や「衝動性」も影響し、必要なケアを忘れてしまったり、衝動的に不健康な選択をしてしまったりすることがあります。また、発達障害を持つ人々が社会生活の中で経験する慢性的なストレスや孤独感、自己肯定感の低さも、セルフネグレクトを誘発する大きな要因となります。コミュニケーションの困難さから人間関係を築くのが難しく、孤立感を感じやすい彼らは、精神的な支援や感情的な支えを得にくい状況に置かれがちです。この慢性的なストレスは、自己のケアに対する意欲をさらに削ぎ、無気力状態に陥らせることがあります。特定の物へのこだわりや愛着が強いASDの特性も、セルフネグレクトと結びつくことがあります。部屋に溜め込まれた物が、本人にとっては心の安定剤のような役割を果たしている場合、それを手放すことは強い不安を伴うため、ゴミ屋敷状態が維持されてしまいます。そして、その劣悪な環境がさらにセルフネグレクトを加速させるという悪循環に陥るのです。セルフネグレクトが進行すると、ゴミ屋敷化だけでなく、栄養失調、皮膚疾患、精神疾患の悪化など、様々な健康問題を引き起こす可能性が高まります。この問題への対応には、発達障害の特性を理解した上で、セルフネグレクトの状態を改善するための専門的な支援が不可欠です。医療機関との連携はもちろん、福祉支援員やケースワーカーが、本人の意思を尊重しつつ、具体的な生活支援を継続的に行うことが重要となります。
発達障害とセルフネグレクト