発達障害、特にアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症、ASD)の特性と、物が溢れかえる「ゴミ屋敷」状態との間には、無視できない関連性が存在します。ASDを持つ人々の脳は、定型発達の人々とは異なる情報処理を行うため、その特性が生活空間の維持に影響を及ぼすことがあります。物が溢れる部屋の原因として、まず挙げられるのは「情報の組織化の困難」です。私たちは日々、視覚や聴覚から膨大な情報を受け取りますが、ASDを持つ人々は、これらの情報を効率的に整理し、意味のあるパターンとして認識することが苦手な場合があります。そのため、部屋の中の物が、それぞれ独立した「一個の物」として認識され、全体としてどのように配置すべきか、どれが不要なものかの判断が難しくなります。結果として、物が増える一方で、どこに何を置くべきか、何を捨てるべきかという基準が曖昧になり、部屋が混沌とした状態に陥りやすくなります。次に、「柔軟性の欠如」も大きな要因です。ASDの人は、一度決まったルールやルーティン、思考パターンに固執する傾向があります。これが片付けの習慣化には役立つこともありますが、例えば「この場所にはこの物を置く」というルールが確立されると、そのルールを崩して新たな整理方法を取り入れることが非常に困難になります。物が増えて収納スペースが足りなくなっても、既存のルールを変えられず、結果的に物が積み上がっていくことになります。また、「過集中」の特性も影響します。特定の興味や関心事に深く没頭するあまり、周囲の状況や時間の経過に気づかなくなり、片付けという日常的なタスクが後回しになることがあります。趣味の収集品であれば、それが過剰になり、部屋のほとんどを占めるようになることもあります。さらに、物の分類や整理に必要な「メタ認知能力」(自分の認知プロセスを客観的に把握する能力)の困難も指摘されており、自分自身の片付け方や思考の癖を認識し、改善することが難しい場合があります。これらの発達特性は、単なる片付けの問題にとどまらず、社会生活全般における適応の困難さとも深く繋がっています。物で溢れる部屋は、ASDを持つ人々の内面の混乱や葛藤を映し出しているとも言えるでしょう。
発達障害と物で溢れる部屋