自治体の窓口でゴミ屋敷問題を担当していると、近隣住民からの切実な悲鳴と、住人の強固な財産権の主張という板挟みになり、日々苦悩の連続です。住民からは「なぜ早く強制撤去してくれないのか」「役所は仕事をしていない」と厳しい叱責を受けますが、実務上、行政が他人の私有地に足を踏み入れ、物を運び出すという行為は、法的に極めて高いハードルが存在します。憲法で保障された財産権は、民主主義社会の基盤であり、これを公権力が侵害することは、よほどの理由がない限り許されません。私たちが「これは明らかにゴミだ」と確信していても、住人が「これは将来売却する価値がある骨董品だ」とか「大切な思い出の品だ」と言い張れば、それは法的には「財産」として扱わざるを得ないのです。万が一、不適切な手続きで撤去を行えば、自治体が住人から損害賠償請求を受け、敗訴するリスクすらあります。しかし、一方で周辺住民の被害も無視できません。悪臭で食事ができない、ネズミが発生して子供が怪我をする、火災が起きたら逃げ場がない。これらの訴えもまた、生存権に関わる重いものです。私たちは条例という限られた武器を手に、まずは粘り強い対話から始めます。住人の多くは孤独を抱えていたり、セルフネグレクトの状態にあったりするため、単に「片付けろ」と命じるだけでは逆効果です。福祉部門と連携し、生活支援や健康管理を行いながら、少しずつゴミを減らしていく。これが最も確実で再発の少ない解決策ですが、結果が出るまでには数ヶ月、時には数年の歳月を要します。近隣住民の我慢が限界に達し、ようやく行政代執行の手続きに進める段階になっても、そこには膨大な事務手続きと予算の確保、そして法的な正当性の証明が待ち構えています。財産権という強力な盾を前に、私たちは常に「公共の福祉とは何か」という正解のない問いに直面しています。行政代執行を実施した翌日、すっかり綺麗になった敷地を見て住民から感謝されるとき、私たちは安堵しますが、同時にその住人の居場所を奪ってしまったのではないかという微かな痛みを感じることもあります。法律は冷徹なルールですが、ゴミ屋敷に住むのも、その隣で苦しむのも、同じ生身の人間です。私たちはこれからも、財産権の尊重という大原則を守りつつ、地域の安全と福祉をいかにして守り抜くか、その針の穴を通すような難しい舵取りを続けていかなければなりません。
ゴミ屋敷問題の法的解決に向けた自治体担当者の苦悩