私は長い間、自分の部屋の扉を開けることが恐怖でした。玄関から一歩踏み出せば、そこには何層にも重なったコンビニの袋と、いつ脱いだかも分からない服の山が広がっていたからです。汚部屋という檻の中に閉じ込められていた私にとって、どこから手をつけるべきかという悩みは、もはや自分の人生のどこを修正すべきかという問いと同じくらい重く感じられました。しかし、ある晴れた日の朝、不意に訪れた宅配便のチャイムが私を現実に引き戻しました。ドアを数センチしか開けられず、隙間から荷物を受け取る自分の姿に猛烈な惨めさを感じたのです。その瞬間に決めました。まずは玄関、この入り口から変えてみせると。私は大きなゴミ袋を手に取り、まずは玄関マットが見えるまで、足元の空き缶を拾い集めました。次に、何年も放置されていた靴の箱や、壊れたビニール傘を迷わず袋に放り込みました。玄関というわずか一畳ほどのスペースが綺麗になるまでに、一時間もかかりませんでした。しかし、その一時間で得られた解放感は、それまでの数年間の絶望を打ち消すほど強力なものでした。床が見える、ただそれだけのことが、これほどまでに自信を取り戻させてくれるとは思いませんでした。玄関が綺麗になると、不思議と次の部屋の山を切り崩す勇気が湧いてきました。汚部屋を片付けるとき、私たちはつい部屋全体を眺めて絶望してしまいますが、大切なのは一畳、いや、一平方メートルだけの勝利を積み重ねることなのです。玄関は家の顔であり、自分自身の外の世界との境界線でもあります。そこを整えることは、社会との繋がりを再構築することでもありました。その日以来、私は毎日一袋、玄関から奥へと少しずつ、自分の領土を広げていきました。片付けが進むにつれて、淀んでいた空気は澄み渡り、私の心の中の霧も晴れていきました。汚部屋を脱出するための魔法の呪文はありません。ただ、今、自分の足元にある一つを拾い、捨てること。その繰り返しだけが、私を自由にしてくれたのです。