ゴミ屋敷問題において、周辺住民が最も恐れる事態は、火災の発生とその延焼です。積み上げられた大量の可燃物は、放火の標的になりやすく、また一度火が出れば瞬く間に巨大な火柱となり、消火活動を困難にします。この火災リスクの観点から、ゴミ屋敷の財産権がいかに制限されるべきか、そして実際に火災が起きた場合の法的責任は誰が負うのかという点は、極めて重要な議論です。通常、日本の民法には「失火責任法」があり、重大な過失がない限り、火元となった者は隣家への延焼被害に対する損害賠償責任を負わないという、火元に非常に有利な原則があります。しかし、ゴミ屋敷の場合は話が別です。大量のゴミを可燃物として野ざらしにし、誰の目にも明らかな火災のリスクを放置し続けていた状態は、法律上の「重過失」とみなされる可能性が極めて高いです。つまり、ゴミ屋敷の住人は、火災が起きた際に延焼した近隣住宅の損害をすべて賠償しなければならないという、甚大な法的リスクを背負っていることになります。また、自治体が条例に基づいて「命令」を出していたにもかかわらず、住人がそれを拒否してゴミを放置し続け、火災が起きた場合には、さらに責任は重くなります。刑事罰としての「失火罪」に加え、行政上の不作為が問われることもあります。この延焼リスクは、周辺住民にとっては「財産権」よりも上位の「生命権」に関わる問題です。それゆえ、最近のゴミ屋敷対策条例では、消防当局と連携し、火災予防の観点からより迅速な介入を可能にする条項を盛り込むケースが増えています。消防法第3条には、火災の予防に支障があると認められる物件に対して、その除去を命じる権限が規定されていますが、ゴミ屋敷に対してもこの権限をより積極的に適用すべきだという声が高まっています。財産権は、あくまで平穏な社会生活を前提とした権利であり、他人の命を危険に晒す「火薬庫」を維持する権利までは認めていません。ゴミ屋敷の住人は、自らの権利を主張する一方で、火災が起きた際に自らが背負うことになる、人生を破滅させかねない賠償責任の重さを認識すべきです。そして行政もまた、延焼被害という取り返しのつかない事態を未然に防ぐために、財産権の保護という足枷を、安全という大義名分のもとでいかに適時適切に外せるかという判断力が求められています。火災の恐怖から解放されることは、地域住民にとっての当然の権利であり、その実現のために法律は存在しているのです。
ゴミ屋敷の火災リスクと延焼に対する法的責任の所在